規制済&水溶性PFAS

書籍「終わらないPFOA汚染」を読んだ感想

ダイキン工業(株)の化学系研究員だった私にとって、この本の内容はあまりに衝撃的でした。ダイキンの淀川製作所(大阪府摂津市)が、PFOA(C8カルボン酸)を大量に漏洩していたことが書かれていました。PFOAの毒性については、確かに大昔ははっきりしていなかったのでしょう。ですが「安全性が分からない化合物は、例え規制がなくとも、漏洩してはならない」、これが化学企業として持つべき基本的な倫理観ではないでしょうか。ましてやPFOAの危険性がある程度以上はっきりしてきた昨今になっても、ダイキン工業のホームページには「PFOAの健康影響については、各国・各機関の評価に相当のばらつきが見られる等、未だ国際的に統一された見解に至っておりません」と書かれています。(後日別の記事でふれる予定ですが)もはやPFOAについて、その危険性を疑問視する様な段階ではないでしょう。また「当社は、これまで上記に代表される規制動向を把握しながら事業を行っており、今後も、引き続き規制動向を注視してまいります。」とも書かれています。「規制動向をよく視ます」というのは、グローバルトップレベルのフッ素化学メーカーの目標としては低過ぎるのではないでしょうか。自ら高い目標値を設定するぐらいの高い技術力と倫理観を見せていただきたいですし、「人を基軸にした経営」という方針のもと「労働者と住民を守るために行動する」と言っていただきたいところです。

https://www.daikinchemicals.com/jp/sustainability/pfoa.html

化学者目線で見ても、この本の記述には過度に不安を煽るような誇張表現や拡大解釈はほとんど見つかりませんでした。それだけに書かれていた内容の信ぴょう性は高いと感じます。個人的にはショックが大変大きく、信じたくない気持ちもありましたが、受け入れざるを得ないでしょう。

ダイキン工業には、地域住民の方に対して、土地を汚染し、健康リスクを高めた責任を取り、できる限りのことをしていただきたいと思います。具体的には「大規模な血液検査を行って高濃度者へ個別に健康診断」、「土地を汚染したことへの補償」、「工場敷地外の汚染地域に対しても地下水の揚水・浄化」などを候補として考えます。

また、PFOAの製造または使用を経験した全ての従業員(元従業員含む)に対して、やはり血液検査を行い、高濃度者には個別の健康診断や補償を行っていただきたいと願います。労働組合の皆さんにもぜひご検討いただきたいです。

令和の現代になっても公害は存在していた。。思わず目を背けたくなるような信じがたい話が書かれていた本でした。それだけに、化学系企業・化学者にとっては企業倫理・技術者倫理を学ぶ上で重要な参考資料になるでしょう。化学に関わる全ての方、大阪府や大阪湾に面した地域にお住いの方には特に読んでいただきたいです。もちろん(水溶性)PFAS汚染問題に関心のある皆さんもぜひ手に取ってみてください。

ABOUT ME
神原 將
お茶の水女子大学・URA。有機フッ素化合物の研究を支援し、実用化を目指して活動中。水溶性PFAS問題について化学者の視点から発信します。 PFASに関する講演、ご相談を受け付けています。大阪大学大学院・工学研究科・応用化学専攻(修士卒)→ダイキン工業・研究員→お茶の水女子大学・研究員を経て現職。
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