PFAS全体

PFASの分類(具体版)

「PFAS」とは「Per-and poly- FluoroAlkyl Substances」の略称です。PFASには数千~1万種類以上の物質があります。そのため、PFASと言っても本当に色々な物質があり、「PFASは全部危ない!」とか「PFASは全部無害だ!」とか、一まとめにして簡単に言えるものではありません。以前の記事では、PFASを3つの分類に分けた円状の図を書き、信号の色に例えて説明させていただきました。今回は、さらに具体的な化学構造を書いて、実際にどの物質が危険で、どの物質は心配しなくてよいのか、一緒に見てみましょう。

まず赤の分類です。「水に溶ける水溶性PFASの中でも、特に危険なもの」というイメージです。現在(2025年3月2日時点)、日本ではC8カルボン酸(PFOA), C8スルホン酸(PFOS), C6スルホン酸(PFHxS)の製造・使用が原則禁止されています。そして筆者としては、少なくともC8カルボン酸の危険性は十分明確になっていると理解しています。そのため、C8カルボン酸と類似の化学構造を持つ物質については規制を進めていく必要があると考えます。特に、生体蓄積性が大きくてフッ素骨格が長い、C7以上カルボン酸類とC5以上スルホン酸類については、製造・使用を原則禁止していただきたいと考えます

次に黄色の分類です。「水に溶ける水溶性PFASの中において、危険だが使用せざるを得ないもの」というイメージを持っています。これらはフッ素骨格が赤より短く、生体蓄積性がより小さい物質です。現代社会に不可欠なフッ素樹脂・ゴムを製造するための助剤等として使われており、現時点では代替物への置き換えは難航している様に見えます。この状況を踏まえ、C6以下カルボン酸類とC4スルホン酸は、製造・使用は認めつつも、排水や水道水中の濃度管理を厳しく規制する形が良いと考えます。また、代替物への置き換えについても引き続き検討を進めていただきたいところです。

ここで更に別の図を見てみます。この図では、赤と黄色の分類をまとめてコンパクトに記載し、新しく青の分類も付け加えています。

次に青の分類です。これらは水には溶けない「非水溶性PFAS」です。つまり、これらの物質が排水として排出されることはなく、飲み水などに含まれる心配はありません化学の観点から考えると、赤や黄の物質の特徴である「カルボン酸」や「スルホン酸」等の骨格を持っていません。言い換えると、水を好きな骨格を持っていないため、水には溶けない物質達ということです。PFASといっても、水に溶ける「水溶性PFAS」とは性質が異なりますし、一つ一つの物質がそれぞれ異なる性質を持ちます。そのため「PFASだから全部危ない」と一まとめに決めつけることはできなくて「各物質ごとに安全性や管理方法を個別に考えよう」等、冷静に捉えるのが良いと考えます。人間一人一人に個性がある様に、一つ一つのPFASごとに個性があるわけです。「ある一人の人間が悪さをしたということは、人類はみんな悪い奴なんだ!」とは言えないのと似ていると思います。実際、非水溶性PFASの全てが危険であることを網羅的に示した根拠(や仮説)は見つかっていません。化学者として断言します。「PFASの全てが危ない」という主張に化学的根拠(や仮説)はありません。予防原則に則って規制すべきと仰る方がいらっしゃいますが、あくまで黄までの規制が妥当で、化学的に似ていない物質達である青まで規制すべき根拠(や仮説)は見当たらないのです。

また、公害を起こしている様な企業が、この「青の部分が安全である」と巧妙に発信し、「あたかも危険な水溶性PFASの規制さえも良くない」様に訴えるリスクもあります(現にそういった主張をされる方もいます)。ですので、水溶性PFAS(赤と黄)の危険性から身を守りたいと思っている皆さんこそ、「本当に危険な物質(赤と黄)」と「そうでない物質(青)」を切り分けて丁寧に発信し、効果的に赤と黄の規制を促していただいた方が、自分達の身を守れると思います。

また、青に書いたPFASは、フッ素樹脂、フッ素ゴム、冷媒、エッチングガス、耐熱オイル、洗浄剤、医薬品、農薬、電子材料部品などがあり、様々な分野で現代社会を支えています。そのため、根拠(や仮説)なく製造使用まで禁止してしまうと、現代的な生活はできなくなってしまい、社会が大混乱に陥るでしょう

赤と黄の部分をしっかり規制し、青の部分は継続利用できる様にすれば、人類は、安全を確保しながら便利な生活を続けていけるでしょう。私は、安全と便利さは高いレベルで両立できると考えています。皆で協力してぜひ実現していきませんか。

ABOUT ME
神原 將
お茶の水女子大学・URA。有機フッ素化合物の研究を支援し、実用化を目指して活動中。水溶性PFAS問題について化学者の視点から発信します。 PFASに関する講演、ご相談を受け付けています。大阪大学大学院・工学研究科・応用化学専攻(修士卒)→ダイキン工業・研究員→お茶の水女子大学・研究員を経て現職。
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